UXを理解する第一歩〜自分自身の体験を分析する

安藤です。

UXデザインの教科書』でも書きましたが、UX(ユーザー体験)はユーザーの主観的なものであり、そうしたユーザーの主観的な体験を考慮して、サービスや製品をよりよい体験を実現できるものにすることがユーザーエクスペリエンスデザイン(UXD)です。

UXデザインが当たり前になってきた今、学部の学生の中にもUXデザインを学びたいと考えている学生が増えてきたました。もちろん、『UXデザインの教科書』を読んで学んでもらえれば良いのですが、知識だけでなんとかできる訳ではないのが、UXデザインの難しいところ。

特に初学者では、ユーザー体験というものが自分の“外”にあるもので、何か手法を学んで分析すると見つかるもの、という感覚が強いように感じます。例えば、UXデザインの演習をしていて、あまりにもピントのずれた提案をする人に「これ、あなたがユーザーだったら使うと思います?」と尋ねると、「いやー、、、」と、いう反応が帰ってくることもしばしば。もちろん、設定したターゲットユーザーが自分とは異なっていることもあるので、こうした反応が妥当な場合も、もしかしたらあるのかもしれません。

UXデザインに携わる人であれば、自分自身のユーザー体験に目を向けて、その体験を内省することができないとダメだろうと、私は思います。自分のことがわからないのに、他人の体験が理解できるんだろうか、とも思います。

学部の3年生(20〜21歳)くらいだと、まだ自分のユーザー体験を客観的に捉えるのが難しい人もいます。そこで、こんなワークをやってみました。

私の利用体験を分析する「UX自己分析ワークシート」

これは『UX白書』の期間のモデルをベースにしたワークシートです。自分の利用体験に対する考えを振り返り、モノとの関わりについて多様な見方ができるようにします。また、こうし体験が自分自身の中にあることに気づくためのワークシートです。

UX自己分析ワークシート(PDF)のダウンロード
UX自己分析ワークシート(MS_WORD)のダウンロード
注:実は、授業で実施したワークシートには「予期的UX」がありませんでした。以下でご紹介するものは、予期的UXがないワークシートでの成果です。上で提供しているものは、画像にあるように修正したものです。

UX白書の期間のモデル

UX白書では、UXの期間を大きく4つに区切り、UXの種類を説明しています(以下、hcdvalue翻訳版より引用)。



この期間のモデルは、ユーザーの経験の全体を4つに分けたモデルではありません。例えば、一時的UX(安藤は「瞬間的UX」という訳語を最近使っています)は、エピソード的UXにも含まれますし、累積的UXの一部でもあります。

この図の読み取りで最も大事な点は、ユーザー自身が感じる利用体験の感じ方が、利用体験の区切り方の違いによって違うことを示しています。つまり、期間によって評価のメカニズムが異なることを意味しています。

先にあげたワークシートでは、左側にこの点を踏まえ、瞬間的UX、エピソード的UX、累積的UXと関連づけて考えるワークシートになっています。

※ちなみに、「瞬間的UX」は本来、このワークシートのように回顧的に考えるものではなく、リアルタイムに体験する(experiencing)体験をさしています。ここでは、本来の意味とは多少違いますが、考えるきっかけとしてお考えいただければと思います。

バリューストーリー

ちなみに、右側のフレームワークは、体験価値を考えるワークシートになっています。UX白書の期間モデルでは、累積的UXに相当する部分を、デザインのヒントになるように、様々な切り口で考えるワークシートになっています。

具体的には、プロダクトやサービスに興味を持った友達に、その製品・サービスのいいところを伝える時に、どう伝えるかを考えることで、その製品・サービスの体験価値が端的に表現されるはずです。そして、その話を聞いている友達が、「いいなー、自分もやってみたいな」と思うように、伝えるはずです。

UXデザインが目指すべき体験価値は、日常的にはこのような形態でやりとりされており、そのことに気がつくと、UXデザインはグッとやりやすくなるはずです。

(参考:『UXデザインの教科書」p. 241, 体験談型バリューストーリー)

学生の事例

上にあげたフォーマットは違いますが(予期的UXがないバージョン)、学生の回答からサンプルをいくつか。

フリクションペン


フリクションペンをあげた学生。女性ですね。最初の印象がネガティブですが、今では「アナログ手帳」要するに紙の手帳を愛用する彼女にとっては、予定変更がある時に消せるので「うってつけ」という累積的UXがあるようです。

これを受けて、バリューストーリーを見ると、とてもわかりやすいですね。
右上の体験価値にこんなことが書いてあります。
「これは綺麗に消せるボールペン。そうだね、、、、何が一番嬉しいって手帳が綺麗なまま更新していけることかな。」
いかにも女子学生らしい体験価値。「消せる」という機能の話はしてないですよね。こういうのが体験価値。体験価値が、UXの積み重ねによって形成されているイメージがつきますでしょうか?

ギター(Bon Joviモデル)


BON JOVIのモデルのギターをあげた男子学生。このシートでは、予期的UXをかけるようになっていませんが、購入時点ですでに記号的な価値があったと思われます。
体験価値のところを読むと、本当に面白いですね。
「憧れのボンジョビと同じ楽器を使うことでモチベーションを高くして練習に打ち込めるんだ。後は同じものを使っているのにできないということは、環境が悪いのではなく自分の努力が足りないのだと簡単に諦めがつき、言い訳できないところがいいんだよ」
いいですねーw。そういう体験価値があるんだ。

10年も使った筆箱


この学生は、10年も使っている筆箱をあげています。累積的な体験としての愛着が湧いていることが読み取れます。

UX白書では、UXに影響を与える要因の一つに、システムやプロダクトを使うユーザーが使用し続けて自分のものになっていくことで、システムやプロダクトに対するユーザーの認識が変わるので、UXも変わっていくということが説明されています。愛着はその結果と言えますね。右側の体験価値を見るとそのことはよくわかります。

「昔から使っている筆箱だよ。最近はボロくなっているけど思い入れが深くて捨てられない」

私が2007年に発表した論文「安藤昌也, 黒須正明 (2007), “長期間の製品利用におけるユーザの製品評価プロセスモデルと満足感の構造”, ヒューマンインタフェース学会論文誌, Vol. 9, No. 4, pp25-36.」でも、長く使い続けていると必然的に愛着が湧くことが示されています。愛着は、累積的UXの一つの典型といってもいいかもしれません。

UXデザイン教育の導入として

UXデザインは、自分の体験の分析的理解なくして実施することはできません。その意味では、まずは自分の体験を振り返るというワークは、UXデザイン教育の導入として役立つのではないかと思います。

企業や学校などで活用いただければと思います。もし、何か面白いことがわかったらぜひ教えてください。


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