ゼミワークショップ-構造化シナリオ法

こんにちはシツチョーです。

12月15日(木)のゼミでは、ゼミワークショップを行いました。これまで「クリーンにする(部屋をきれいにする」というテーマで、フォトエッセイ→インタビュー→KA法でユーザーの価値とコンテキストを理解してきました(ブログ参照)。このデータを活用して、新しい体験を産み出すアイディアを考えるのが、今回のワークショップの目的です。

構造化シナリオ法

ワークショップでは、日本人間工学会アーゴデザイン部会が開発してきた、構造化シナリオ法を用います。構造化シナリオ法は、ユーザーの本質的要求価値(今回はKA法で導出したユーザーの価値)とペルソナ情報、ビジネス情報(今回のWSでは省略)を元に、シナリオを抽象度のレベルを変えながら、徐々に具体的にブレークダウンしていく体系的なシナリオライティングによるデザイン手法です。UXのためのデザイン手法の代表的で有効な方法といってもいいでしょう。私がカリキュラムを担当している産業技術大学院大学の人間中心デザインの専門プログラムでも、この手法を採用し、横浜デジタルアーツ専門学校の浅野先生に講師をやっていただいております。

さて、少しこの手法について解説しましょう。ポイントは、3つのレベルでシナリオを記述することです。3つとは、1)バリューシナリオ、2)アクティビティシナリオ、3)インタラクションシナリオです。バリューシナリオがこの3つの中でもっとも抽象度が高く、これから発想し、考えるプロダクトやサービスが提供するユーザーにとっての価値が、そのプロダクトやサービスを使うシーンとともに記述されたものです。ここには、具体的な製品の姿や操作などユーザーが行う行動は記述されません。あくまで、これから作る製品をユーザーがどのように捉え、製品がどういう価値を提供するのかのみに着眼したシナリオになります。まずUXをデザインするには、ここが意識されないと意味がありません。

次に書くのは、アクティビリティシナリオです。ユーザーが製品を使うそれぞれのシーンにおいて、どんな使い方をするのかをユーザーの活動に着目して記述したものです。実は、これが最も重要で、かつ結構練習を積まないとなかなか書けないシナリオです。ここでは、ユーザーと製品の関わりを中心に記述するのですが、具体的なインタラクション(操作やメディア、デバイス)は登場しません。同時に、先に記述したバリューシナリオを満たしている必要があります。

アクティビティシナリオは、シーン毎に製品を使うタスクがシナリオの中に出てきます。そのタスクを詳細にブレークダウンしたのが、インタラクションシナリオです。インタラクションシナリオは、具体的な機器やメディアなどとユーザーの操作を記述します。ここまで落ちてくると、簡単なワイヤーフレームは書けるレベルになっているはずです。

先述の浅野先生によると、多くのエンジニアの方はアクティビティシナリオを考えるのが不得意で、先にインタラクション(ワイヤーフレーム)を書いてから、その後付けとしてアクティビティシナリオを考えてしまう人が多いようです。実際に私もこの手法を実践してみると、アクティビティシナリオを考えるために、ある程度具体性のある製品イメージを思い浮かべないと書けないという経験をしました。構造化シナリオ法は、3つのシナリオを行ったり来たりしながら、徐々に具体化したり修正したりして作るものです。ですので、インタラクションシナリオを先に作ってはいけないわけではありません。でも、UXDでは、ユーザーの体験を基軸にデザインを考えるわけですので、いかに理想的なアクティビリティシナリオをしっかり書き、そのアクティビリティシナリオをドライビングフォースに詳細をデザインしていくことが重要なはずです。その意味では、UXを志す方には、アクティビリティシナリオをまず発想してしまう、というくらいになっていただきたいものです。

ワークショップ

さて、安藤研では2時間で構造化シナリオ法のワークショップを、2チームに分かれてやってもらいました。まず、時間短縮のためペルソナは安藤研学生と似た境遇の人にし、以下のようなペルソナにしました。

ペルソナ

山田太郎 21歳・男性 大学生 一人暮らし
・デザイン学科に通っており、自宅で演習課題をやったりするので部屋が汚れがち。
・部屋を掃除をするのが好きではないが、作業をするのに部屋が散らかっているとイライラする。
・部屋にあるものには、ある程度こだわりがあるものをそろえるようにしている。

進め方

まず、チームでKA法の価値のシートから、ペルソナを考慮してどんな価値を提供がよさそうかを考え、提供価値を決めます。次に、そうした価値を提供できそうな製品のアイディアを考え、バリューシナリオを作成します。

バリューシナリオが出来たら、一端グループで発表。その後、1つの代表的なシーンを選び、アクティビティシナリオを考えます。その際、インタラクションを想像する必要があれば、インタラクションを考えることも可としました。

最後に、アクティビティシナリオを表現するためのアクティングアウトを行います。

結果

チーム1:別府、宮川、一丸、雅俊、神山




●バリューシナリオ
バリューシナリオは、あんまりうまく書かれていませんが、「友達が来た時にパッと見きれいに見えるように、こだわって整理され、友達に褒められてうれしい」ということですね。パット見きれいだけど、こだわって整理されるという点を、どういう風にブレイクダウンするかがポイントですね。

しかし、前も言いましたが、ストーリーテリング能力を鍛えましょう。。。

●アクティビリティシナリオ
シーンは、バリューシナリオの3、「友達が来た」というシーンですね。製品がどんなもんか分かりませんが、すでに商品名がついてますねw。なんか入れて振るんですね。シェイク。

●アクティングアウト



おお! ラピットプロトタイプというか、イメージ映像を使って表現してありますね。技術的な制約は考えないという条件なので、どうやるかは別ですが、面白そうな体験の提案ではありますね。ちゃんとバリューシナリオの価値は提供できているみたいですね。

以下は、アクティングアウト中につかった、製品イメージの映像。


iPhoneがあると、こんなプロトタイプも瞬間でできてしまうわけですね。ささっとこういうのを作れる安藤研学生は、立派。もちろん、逆再生ビデオ。iPhoneをつかったプロダクトイメージのプロトタイプの可能性が広がるかも。。。


チーム2:登尾、岡野、高岡、菅谷




●バリューシナリオ
「掃除のタイミングがわかって、掃除をした後に褒めてもらえるので、段々掃除が好きになった」というバリューシナリオ。なるどほね。ポイントは「掃除のタイミングがわかる」ことなんだけど、掃除のタイミングがわかるってどういうことだろう? それってKA法の価値のどれだろう?

●アクティビリティシナリオ
なんと! 製品が掃除のタイミングを教えてくれると同時に、友達を呼んでしまう(笑)! 友達が来ちゃうから掃除しなきゃーって(笑)。一種の脅しですね。でも、友達が来るかどうかは友達次第だし、どうなのかな? でも、発想は面白い。

●アクティングアウト




うーん。アクティングアウトでみると、あんまりピンとこないなーと言う感じがします。アクティングアウトはやってみて、オーディエンスに計画したバリューシナリオの価値が伝わるか伝わらないかが評価の一つの指標です。受けが悪い場合は、どこかがまずいのでリファインしましょう。

このアイディアの場合、「掃除のタイミングを教えてくれる」というのが、KA法の分析では当てはまるものがないというのが問題でしょうね。もしかしたら価値の解釈を間違ってしまったのかもしれませんね。

まとめ

2チームとも、まずは構造化シナリオ法で考えることは出来たと思います。特にチーム1は、ラピッドに効果を表現するビデオを作成してアクティングアウトで見せるなど、すばらしかったです。よく考えたらこのチームは、情報デザイン演習でアクティングアウトを経験したことがある学生が、3人もいたからですね。なるほど納得。

一方、チーム2はそもそもユーザーの本質的要求価値をうまく設定できなかったため、ハイコンテキストな解決策になってしまったのが分かりにくさの原因でしょうね。ただ、「友達を同時に呼んでしまう」という発想は、学生ならではで面白いくてよかったです。

安藤研のほとんどはプロダクトデザインコースの学生です。このワークショップが終わった後の振り返りの時、ある学生が「プロダクトだと、作品ができた後に先生から“これ誰がいつ使うの?”って言われたりするけど、最初から考える方法を知らなかった」とのこと。そうだよねー。プロダクトは、こういう体験から発想することを教えませんからね。

UXDのデザインアプローチの一つ、構造化シナリオ法でした。

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